寛解期:症状が安定している時期の食事

IBDと食事

執筆: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)
監修: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)

こんにちは、ジーケアの杉原です。

今回はIBDの病態が安定している寛解期の食事についてご紹介します。

IBD寛解期では、腸の炎症が落ち着き、日常生活を問題なく過ごせることが多くなります。寛解期の食事は、栄養バランスの良い食事を摂取しながら寛解状態を維持することが目標です。また食事は下痢や腹痛などの消化器症状などと密接な関係があるため、自分に合った食品を選ぶことにより消化器症状をコントロールすることができます。

このように寛解期では、栄養状態の維持および消化器症状をコントロールすることにより、最終的に生活の質(Quality of Life; QOL)をあげることがゴールです。あまり必要のない食事制限はQOLを下げる要因にもなりますので、何に気をつけたらいいのかきちんと理解していきましょう。

IBD寛解期における食事のポイント

  • 健康な人と近い食生活が可能
  • 消化管に負担となる食品は食べる量と頻度に注意
  • 自分に適した食事療法で消化器疾患をコントロール

(1)IBD活動期はどんな栄養バランスがいいの?

IBD活動期では、高たんぱく質・低脂質・低食物繊維食が基本でした。

ではIBD寛解期ではどのような栄養バランスが良いのでしょうか?IBD寛解期における食事の特徴について詳しくみていきましょう。

1・2)エネルギー・たんぱく質

IBD活動期では、腸管の炎症により身体の代謝が活発になっているため必要な栄養素量が大きく変化していました。しかし、寛解期では炎症は落ち着いているため、エネルギー、たんぱく質の摂取量は健康な人と同程度で十分と言われています。1

 

3)脂質

IBDの栄養療法は、潰瘍性大腸炎とクローン病で少し異なっており、その大きな違いが脂質の摂取量になります。クローン病では、脂質をほとんど含まない成分栄養剤が寛解維持に有効であること2,3、脂質摂取量別に寛解維持率をみたところ30g未満で寛解維持率が高かったことから4、従来の栄養指導では脂質を30g/日未満に制限するように指導していました。一方、潰瘍性大腸炎では、そのような明確な科学的根拠がなかったため、脂質の制限は必要ないと考えられていました。

これらの考え方は少しずつ変化してきていますので、その根拠となる研究をご紹介します。

 

クローン病では、脂質をほとんど含まない成分栄養剤が寛解誘導・寛解維持に有効である2ことから、脂質制限が従来の栄養指導で行われてきました。しかし、成分栄養剤と脂質を含む他の経腸栄養剤で寛解導入率に変化が見られない4ことから、経腸栄養剤の効果が脂質制限によるものなのか、他の栄養素が重要なのかはわかっておりません。

2019年に発表された欧米のランダム化比較試験では、赤身肉や加工肉の摂取を制限(同時に脂質も制限される)するよう指導しても、クローン病の再燃率は変化がなかったことが示されました。5

一方、一部の臨床研究では、赤身肉や加工肉の摂取、ミリスチン酸という飽和脂肪酸の摂取が潰瘍性大腸炎の再燃率に影響することが報告されています。6,7

これらの背景から、脂質摂取量がIBDの再燃率に影響を及ぼすかどうかは、一貫した結果が出ておらず結論が出ていないのが現状です。

厳しい脂質制限は、食品の選択が難しくなり生活の質(QOL)の低下にも繋がるため、厳しい脂質制限は必要ないと考えられます。実際に、アメリカではクローン病と潰瘍性大腸炎に対して、日本のような厳しい脂質制限は行われていません。

今後の研究次第で推奨内容は異なる可能性がありますが、現段階では活動期のような厳しい脂質制限は、潰瘍性大腸炎・クローン病ともに必要ないと思われます。

しかし、脂質制限がないからといって、なんでも好きなものを食べて良いというわけでなく、あくまでも健康的な範囲内で脂質を摂取するように気をつけましょう。

特に、食の欧米化や加工食品の普及により、どうしても飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸を摂取が増えてしまいがちになりやすいので、意識してオメガ3系やオメガ9系脂肪酸を摂取するように心掛けましょう。

また、脂質制限が必要ないからといって、成分栄養剤も必要ないというわけではないので注意してください。成分栄養剤には脂質制限以外にも様々な効果があるため、担当医師の指示に従い服用しましょう。

 

4)炭水化物

炭水化物については、IBD活動期と同様に精製糖の利用を抑えるか精製度の低い砂糖(きび砂糖など)を利用しましょう。特に清涼飲料水にはたくさんの糖分が含まれていますので、体調が良いからといって飲みすぎないようにしましょう。

また、糖分ゼロやダイエット飲料などには人工甘味料が含まれています。人工甘味料は腸内細菌に影響するを及ぼすことが明らかにされており、IBDの病態に影響する可能性も否定できません。たまに飲む分には問題ないと思いますが、摂取量と頻度に気を付けましょう。

 

5)ビタミン・ミネラル

IBD寛解期では、自主的に食事制限を行なっている患者さんが多く、ビタミンやミネラルといった微量栄養素が不足している患者さんが多いことが示されています。8

IBDで特に見られる鉄欠乏性貧血や骨粗鬆症などは、食事からのビタミンやミネラルの摂取量に関わっていますので、もし不足がある場合はサプリメントなどを利用するといいでしょう。

 

6)食物繊維について

IBD活動期では、消化管の負担を避けるために食物繊維の摂取を制限していました。しかし、寛解期では狭窄がある場合を除いて、食物繊維の摂取が推奨されています。

食物繊維を多く含む野菜や果物には、ポリフェノールなどの様々な生理活性物質(フィトケミカル)を含んでいるため、身体の健康のためには必要不可欠です。日本人の食事摂取基準では、男性:20 g/日以上、女性:18 g/日以上の食物繊維摂取が目標値とされています。9

なかなかこの目標値を達成するのは難しいですが、寛解期では徐々に野菜や果物の摂取を増やしていきましょう。

 

7)水分補給

消化器症状が引き起こされるのを恐れて水分摂取を控えてしまうと、脱水につながるため注意が必要です。脱水予防のためにも、こまめに水分補給をしましょう。

(2)IBD寛解期における消化器症状のコントロール

IBD寛解期では、寛解維持のためにバランスの良い食事を摂取するだけでなく、自分に合った食品を選択し下痢や腹痛といった消化器症状をコントロールする必要があります。下痢や腹痛といった消化器症状は、IBD患者さんのQOLを下げる主な原因になります。10,11

最近の食事に関する臨床研究では、この消化器症状に標的を当てた食事療法が注目されています。特に過敏性腸症候群(IBS)で臨床効果の見られた“低FODMAP(ファドマップ)食”が、IBD患者さんにも有効であるという研究が相次いで発表されています。12

実際、消化器症状をコントロールすることにより、IBD患者さんのQOLも向上したというデータが得られており13、IBDの食事療法の一つとして、その臨床効果が期待されています。

残念ながら、日本人のIBD患者における低FODMAP食の研究は行われておらず、あまり普及していないのが現状です。今後も低FODMAP食はIBDの食事療法として重要になると考えられるので、ジーケアでも最新情報を発信していきたいと思います。

(3)IBD寛解期における食事のまとめ

今回はIBD寛解期の食事の注意点について紹介させていただきました。

上記のポイントを簡単にまとめると、IBD寛解期では健康な人と同じような食生活を送ることが可能です。ただし、何でも好きなだけ食べていいわけではないのでご注意下さい。

食事がIBDの再燃にどの程度影響を及ぼすかは、臨床試験の数が少なくわかっていません。また、IBDは個人差の大きい疾患であるため、人によって体調に関わってくる食事の種類・量が異なる可能性があります。

ファストフードや加工食品などの悪い食べ物を全て制限する必要はありませんが、あまり無茶はせずに”摂取量と頻度”に気を付けましょう。

今後もIBDと食事に関する新しい情報があったら、随時アップデートをしていきたいと思います。

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参考文献

  1. Forbes A, Escher J, Hébuterne X, et al. ESPEN guideline: Clinical nutrition in inflammatory bowel disease.Clin Nutr. 36(2):321-347, 2017.
  2. Takagi S, Utsunomiya K, Kuriyama S, et al. Effectiveness of an ‘half elemental diet’ as maintenance therapy for Crohn’s disease: A randomized-controlled trial.Aliment Pharmacol Ther. 1;24(9):1333-40, 2006.
  3. Yamamoto T, Nakahigashi M, Saniabadi AR, et al. Impacts of long-term enteral nutrition on clinical and endoscopic disease activities and mucosal cytokines during remission in patients with Crohn’s disease: a prospective study.Inflamm Bowel Dis. 13(12):1493-501, 2007.
  4. 厚生省難治性炎症性腸管障害調査研究班 平成10年度研究報告書:クローン病の維持療法時の脂肪摂取と累積再燃率
  5. Albenberg L, Brensinger CM, Wu Q, et al. A Diet Low in Red and Processed Meat Does Not Reduce Rate of Crohn’s Disease Flares.Gastroenterology. 2019, epub ahead of print
  6. Jowett SL, Seal CJ, Pearce MS, et al. Influence of dietary factors on the clinical course of ulcerative colitis: a prospective cohort study.Gut. 53(10):1479-84, 2004.
  7. Barnes EL, Nestor M, Onyewadume L, et al. High Dietary Intake of Specific Fatty Acids Increases Risk of Flares in Patients With Ulcerative Colitis in Remission During Treatment With Aminosalicylates.Clin Gastroenterol Hepatol. 15(9):1390-1396, 2017.
  8. Weisshof R, Chermesh I. Micronutrient deficiencies in inflammatory bowel disease.Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 18(6):576-581, 2015.
  9. 佐々木 敏, 菱田 明. 日本人の食事摂取基準(2015 年版). 第一出版. 2014年
  10. Tomita T, Kato Y, Takimoto M, et al. Prevalence of Irritable Bowel Syndrome-like Symptoms in Japanese Patients with Inactive Inflammatory Bowel Disease.J Neurogastroenterol Motil. 30;22(4):661-669, 2016.
  11. Gracie DJ, Hamlin JP, Ford AC. Longitudinal impact of IBS-type symptoms on disease activity, healthcare utilization, psychological health, and quality of life in inflammatory bowel disease.Am J Gastroenterol. 113(5):702-712, 2018.
  12. Zhan YL, Zhan YA, Dai SX. Is a low FODMAP diet beneficial for patients with inflammatory bowel disease? A meta-analysis and systematic review.Clin Nutr. 37(1):123-129, 2018.
  13. Pedersen N, Ankersen DV, Felding M, et al. Low-FODMAP diet reduces irritable bowel symptoms in patients with inflammatory bowel disease.World J Gastroenterol. 14;23(18):3356-3366, 2017.
杉原康平

管理栄養士(日本)、栄養学博士。自身のクローン病を機に、栄養学の興味を持ち、管理栄養士の道を目指す。よりIBDを専門に勉強したい、また栄養学的な立場からIBD治療に貢献したいと思い、栄養学の大学院に進学する。栄養学博士を取得後、米国ミシガン大学に研究留学し、食事とIBDの関係を明らかにする研究に従事。

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