過敏性腸症候群(IBS)と食事の概要

IBSと食事

執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)、米国管理栄養士)
監修: 杉原 康平(栄養学博士、管理栄養士)、堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)

 

こんにちは、ジーケアの宮﨑です。

今回は、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)と食事の概要を紹介させていただきます。

 

IBSは、原因不明の疾患であり、腹痛や下痢といった消化器症状を引き起こす要因が人によって異なることが多くあります。

その中でも、食事が消化器症状の原因となっている場合は、原因となる食品を制限することにより症状が改善することが明らかにされています。

今回は、IBS患者さんではどのような食事が適しているのか、その概要をご説明します。

なぜIBSに食事が大切なのか?

IBSの原因は未だ明らかにされていませんが、下痢や腹痛といった消化器症状を引き起こす要因は人によって異なります。

例えば、ある患者さんはある特定の食事が起因となって消化器症状が引き起こされることもあれば、他の患者さんは精神的なストレスによって消化器症状が引き起こされることがあります。

また、これらの症状にも波があり、症状が強く出る時期もあれば、症状が落ちつく時期もあります。

一方、多くの患者さんが食事がIBS症状に影響を及ぼすと考えており、100名以上のIBS患者を対象とした調査では、消化器症状のために食事の量に注意している患者さんは62.4%、食事の種類に気を使っていると答えた患者さんは、73.6%にのぼりました。(4)

IBSは、消化器症状が出やすい状態になっています。健康な人では強く刺激しないと症状が出ないのに対し、IBS患者さんでは少しの刺激でも消化器症状が出ることがあります。

つまり、ある食品を摂取した場合、健康な人では大丈夫でも、IBS患者さんでは下痢や腹痛などの消化器症状を引き起こす可能性があるということです。

この場合、原因となる食品を普段の食事から取り除く、あるいは制限することにより消化器症状が改善することがあります。

 

現在、IBSに対する食事療法は欧米を中心に盛んに研究が行われています。

食事療法は、他の治療法と異なり、副作用が少ないことや医療費が削減できることもメリットのひとつです。

一方で、原因となるものを全て制限するとバランスの悪い食事になってしまい、栄養状態を悪くするリスクもあります。

そのようなリスクを防ぐためにも、正しいIBSの食事療法を学んで理解していきましょう。

IBSに対する主な食事療法

IBSの食事に関しては、1)低フォドマップ食、2)グルテンフリー食、3)食物繊維、4)プロバイオティクスの研究が行われています。

今回は、これらの食事療法の概要を説明させていただきます。

 

1) 低フォドマップ食

フォドマップ(FODMAP) とは、以下の頭文字を組み合わせた言葉になります。

 

Fermentable:発酵性の

Oligosaccharides:オリゴ糖(フルクタン、ガラクトオリゴ糖) 

Disaccharides:二糖類(ラクトース)

Monosaccharides:単糖類(フルクトース) 

And

Polyols:ポリオール(ソルビトール、マンニトール、イソマルト、キシリトール、グリセロール)

 

低フォドマップ食は、これらのFODMAPを制限した食事になります。日本ではあまり認知されていませんが、低フォドマップ食の研究は海外を中心に盛んに行われています。

これまでの研究では、低フォドマップ食を実践することにより、50-80%のIBS患者さんが下痢や腹痛といった消化器症状が改善し、生活の質(QOL)が向上することが明らかにされています。(5)

その一方で、各臨床試験のデータの”質”が低いとの指摘もあり、更なる研究が期待されます。(6)

一方、低フォドマップ食は食品の選択の幅を制限してしまうため、栄養不足になるリスクや腸内細菌への影響などの懸念されています。

そのため低フォドマップ食を実践するためには、この食事療法をきちんと理解することが重要になります。

 

2) グルテンフリー食

グルテンとは、小麦や大麦などに含まれるたんぱく質になります。セリアック病と呼ばれる自己免疫疾患では、このグルテンに対し過剰に免疫反応が引き起こされる疾患になります。

IBS患者さんの中にも、グルテンに反応することによって、下痢や腹痛といった消化器症状を呈する患者さんがいます。

そのため、食事からグルテンを取り除いたグルテンフリー食が消化器症状の改善に有効である場合があります。

これまでの複数の臨床試験をまとめて分析したメタ解析では、通常の食事群と比べIBSの総合的なスコアの改善が確認が示唆されたものの、統計学的な差は確認されず、さらなる研究が求められています。(6)

 

3) 食物繊維

食物繊維とは、人の消化酵素によって消化することができない難消化性成分の総称です。現在は5大栄養素に次ぐ“第6の栄養素”として、その健康促進効果が期待されている栄養素になります。

食物繊維は様々な種類がありますが、主に水溶性食物繊維と不水溶性食物繊維に分けられます。水溶性食物繊維は水に溶けて水に溶けてジェルのようになる食物繊維で、下痢・便秘双方への用いられます。一方不水溶性食物繊維は水に溶けない食物繊維で便秘へ用いられます。

これまでの複数の臨床試験をまとめて分析したメタ解析では、水溶性食物繊維にIBSの消化器症状を改善する効果があることが示されました。

一方、小麦ブラン(主に不溶性食物繊維)ではIBS症状の改善効果が認められず、現在の科学的エビデンスでは水溶性食物繊維のみIBS患者さんに効果的と言われています。(8)

 

4) プロバイオティクス

腸内環境を整えるうえで重要になるのが、プロバイオティクスです。

プロバイオティクスは、「身体に有益な効果を与える生きた微生物、あるいはそれらを含む食品のこと」で、乳酸菌、ビフィズス菌、ヨーグルトなどが代表例です。

プロバイオティクスは、カプセルや錠剤の形態で経口投与するのが一般的で、簡単に摂取することができます。そのため、IBSにおいてもプロバイオティクスの効果を調べた研究は多数あります。

これまでの臨床研究では、プロバイオティクスを投与するにより、腹部膨満感などの消化器症状が改善されたとの報告があります。

しかしながら、各試験で使用されているプロバイオティクスの種類や試験デザインが大きく異なることから、プロバイオティクスの科学的根拠は十分ではないと考えられており、現在も研究が進められています。(9)

IBSと食事療法のまとめ

今回はIBSと食事療法について、概要を紹介させていただきました。

IBS患者さんの中には、食事が消化器症状の引き金につながること経験されている方も多いのではないでしょうか?

IBSは様々な原因が関与しており、人によって合う食品・合わない食品もあるため、この食事療法なら大丈夫というものは存在しません。

食事は簡単に変えやすいのが食事療法のメリットの一つですが、きちんと管理できないと原因もわからないまま、身体に必要な食べ物まで制限してしまう可能性もあります。

そのため、専門医・管理栄養士の指導のもと、上記の食事療法を実践するのが良いと思います。

今後の記事では、それぞれの食事療法について、さらに詳しく解説していきたいと思います。

参考文献

(1) Chey WD, Kurlander J, Eswaran S. Irritable bowel syndrome: a clinical review. 2015 Mar 3;313(9):949-58.

(2) 日本消化器病学会. 機能性消化器疾患ガイドライン2014-過敏性腸症候群. 2014年4月1日

(3) Enck P, Aziz Q, et al. Irritable bowel syndrome.Nat Rev Dis Primers. 2016 Mar 24;2:16014.

(4) Chey W. Irritable Bowel Syndrome; Pathophysiology and Diagnosis, Food: The Main Course to Digestive Health, 2017.

(5) Staudacher HM, Whelan K. The low FODMAP diet: recent advances in understanding its mechanisms and efficacy in IBS. Gut. 2017 Aug;66(8):1517-1527.

(6) Dionne J, Ford AC, et al. A Systematic Review and Meta-Analysis Evaluating the Efficacy of a Gluten-Free Diet and a Low FODMAPs Diet in Treating Symptoms of Irritable Bowel Syndrome. Am J Gastroenterol. 2018 Sep;113(9):1290-1300.

(7) Lacy BE. The Science, Evidence, and Practice of Dietary Interventions in Irritable Bowel Syndrome. Clin Gastroenterol Hepatol. 2015 Nov;13(11):1899-906.

(8) Moayyedi P, Quigley EMM, Lacy BE, et al. The effect of fiber supplementation on irritable bowel syndrome: a systematic review and meta-analysis. Am J Gastroenterol 2014;109:1367–1374.

(9) Ford AC, Moayyedi P, Lacy BE, et al. American College of Gastroenterology monograph on the management of irritable bowel syndrome and chronic idiopathic constipation. Am J Gastroenterol. 2014;109(suppl1):S2-S26; quiz S27.

宮﨑 拓郎

米国管理栄養士(RDN)、公衆衛生学修士 (MPH)、中小企業診断士。帝人ファーマ(株)で約10年間新薬のアライアンス・事業開発等を経験後、退職し渡米。2018年ミシガン大学公衆衛生学修士(栄養科学)修了。卒業後約8ヶ月間、大学病院等での管理栄養士インターンを経て米国管理栄養士資格取得。在学中から約2年に渡り同大学消化器内科臨床試験コーディネーターとして消化器疾患の臨床試験(低ファドマップ食など)にも従事。

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