執筆: 宮﨑 拓郎(公衆衛生学修士(栄養科学)アメリカ栄養士会所属アメリカ登録栄養士)
監修: 堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)
みなさんこんにちは。今回は、IBS(過敏性腸症候群)と食物繊維について紹介します。
食物繊維とは?
一般的に食物繊維 (Dietary Fiber)とは、人間の体で消化されない植物由来の炭水化物やリグニンなどを示します(1)。最近は、機能性食物繊維 (Functional Fiber)という言葉を耳にすることも多いと思いますが、これは、身体にとって有益な機能を有する消化されない炭水化物のことを指します。
食物繊維と機能性食物繊維両方に含まれる食物繊維(セルロースやペクチンなど)もあれば、どちらか一方に該当する食物繊維(ポリデキストロースやサイリウムなど)もあります。
食物繊維がIBS患者さんに注目される理由は、食物繊維が多くの方が苦しまれている下痢や便秘などを改善する可能性があることに加え、腹痛などIBS症状全般の改善も期待されているからです。
その一方で、食物繊維の種類によってはガスや腹部膨満感に繋がることもあるため、各食物繊維の種類とその機能を正しく理解することが大切です。
食物繊維の種類と消化器症状への影響
では、具体的に食物繊維にはどのような分類があり、それが消化器症状にどのような影響を与えるのかをみていきましょう。
これまで食物繊維は水に溶けやすい/溶けにくい(solubility:水溶性)という機能で分類されることが一般的でした。しかし近年、特にIBSの領域では、粘着しやすいかどうか(viscosity:粘着性)と大腸で腸内細菌に発酵されやすいか(fermentability:発酵性)という機能に注目が集まっています(2)。これらの機能を踏まえた食物繊維の分類を以下の表にまとめました。
表 食物繊維の種類と消化器症状への応用
食物繊維の特性 | 食物繊維の種類 | 食品例 | 消化器症状への応用 |
非水溶性 発酵性(低) 粘着性(低) | セルロース ヘミセルロース リグニン | 大麦、全粒製品、ナッツ、アマニなど | <便秘に対する効果> 腸の排便活動を促進し、排便にかかる時間を短縮することをサポート |
水溶性 発酵性 粘着性(低) | イヌリン フラクトオリゴ糖 ガラクトオリゴ糖 レジスタントスターチ など | 玉ねぎ、豆類、 調理後に冷えたじゃがいもやパスタなど | <下痢に対する効果> 軟便の頻度や我慢できない便意などの改善をサポート *摂取時の注意 |
水溶性 発酵性 粘着性 | ベータグリカン ペクチン など | べリー類 ばなな オーツ 柑橘類 | 便が腸に留まる時間を長くし、ジェル状の便を形成し、便の頻度の正常化をサポート |
水溶性 発酵性(低) 粘着性 | サイリウム | オオバコ | <下痢に対する効果> ジェル状の便を形成し、緩い便を固形化し、便が腸に留まる時間を長くすることをサポート <便秘に対する効果> 硬い便を柔らかくすることをサポート |
参考文献(3)を一部改変
このように食物繊維は水に溶けるか溶けないか、腸内細菌に発酵されやすいかされにくいか、粘着性が高いか低いかにより、下痢や便秘に対する効果が異なります。
また、一つの食品には、様々な種類の食物繊維が入っているのが一般的で、その効果も摂取量によって異なる点にご留意ください。
なお、近年様々なサプリメントが開発されているイヌリンなどの水溶性/発酵性/低粘着性の食物繊維については、急激に摂取量を増やすと、腹痛、腹部の膨満感、ガスに繋がることがあると言われています。摂取する場合は、1日に1から3gの食物繊維を1-3日かけて増やしていく(3)など徐々に増やしていきましょう。
IBSに対する食物繊維の効果
食物繊維の中では、特にサイリウム/オオバコの便秘やIBSに対する効果に関する研究が盛んに行われておりその有用性が確認されています(4)。
また2014年に発表された食物繊維のサプリメントのIBSに対する効果を検証した14の臨床研究を解析した研究(5)では、食物繊維がIBS症状や腹痛を有意に改善されることが確認されました。この研究において、食物繊維の種類としては、サイリウム/オオバコなどの水溶性食物繊維で有意な改善がみられましたが、不溶性食物繊維であるブランで有意な改善が認められませんでした。
また、食物繊維のサプリメントの投与に関する副作用については、プラセボ群と比べて有意な増加は認められませんでした。
IBSの腹痛などに対して食物繊維が効果的な理由は?
腹痛などのIBS症状に対して食物繊維の効果がみられるメカニズムについては明確なことはわかっていません。
仮説としては、食物繊維は神経内分泌系に影響を与えることにより腹痛などのIBS症状を改善するのではないかということが言われており、食物繊維が腸管内腔のPHや内圧に影響を与えることでセロトニンと呼ばれるホルモンの分泌が刺激され内臓の過敏な状態を緩和することや、食物繊維が腸内細菌に発酵されて生じる短鎖脂肪酸が様々なメカニズムを通して腸管に影響を与えることなどが考えられています(6)。
食物繊維の摂取に関する留意点は?
現在、海外も含めてIBS患者に対する具体的な食物繊維の摂取目標は設定されていません。しかし一般的には、健康な方と同程度の食物繊維の摂取を目標とされることが多いです。
日本における最新の食物繊維の摂取目標(7)は、男性(18-64歳):21g/日以上、女性(15-64歳):18g/日以上となります。
この目標に対し、まずは食事を十分に摂取することにより、食物繊維の摂取目標を達成することが推奨されます。しかし摂取目標に到達しない、または症状が改善しない場合は、主治医の先生や管理栄養士と食物繊維のサプリメントの摂取についてご相談いただければと思います。
なお、ご参考までにですが、私が所属していたミシガン大学の消化器内科では、食物繊維のサプリメントについては、これまでの研究を踏まえ一般的にIBSの便秘型の方に対して勧められることが多く、種類としては、サイリウム/オオバコを推奨されることがほとんどでした。
また、繰り返しになりますが、表1にある発酵性の高い食物繊維サプリメントを選択する場合は、消化器症状の悪化を防ぐため、少量から摂取を始め徐々に増やしていきましょう。
IBSと食物繊維のまとめ
今回は、IBSと食物繊維について紹介しました。食物繊維には、水に溶けやすいか、粘着性が高いか、腸内細菌によって発酵されやすいかで4つのタイプに分類できます。そして、それぞれのタイプで消化器症状への機能や影響が異なりますので、自分の消化器症状に適した食物繊維を摂取することが大切です。
またあくまで食事での食物繊維の摂取を心がけ、摂取が難しい、症状が改善しない場合は、特にIBS便秘型の方でサプリメントが選択肢となります。
一方、これまで他の記事でもお伝えしてきたように、IBSの症状には、様々な要因が関与していると考えられており、人によって、合う食品・合わない食品があるため、この食事療法なら大丈夫というものは存在しません。
食物繊維についても、エビデンスは構築されてきているものの、数ある食事療法の中での選択肢の中の1つでしかありません。私自身の経験でも、効果がある人もいれば効果がない人もいるというのが正直なところです。
ぜひ専門の消化器内科医や管理栄養士と相談の上、ご自身にあった食物繊維や最適な食事療法を模索頂けましたらと思います。
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参考文献
(1) National Academy of Sciences, Engineering, Medicine. Dietary, functional, and total fiber in: Dietary Reference Intakes for Energy Carbohydrate, Fiber, Fat, Fatty Acids, Cholesterol, Protein, and Amino acid. Washington, DC: National Academies Press; 2005; chap 7:339-421.
(2)MacRoie JW. Evidence-Based Approach to Fiber Supplements and Clinically Meaningful Health Benefits, Part 1 What to Look for and How to Recommend an Effective Fiber Therapy. Nutr Today. 2015 Mar; 50(2): 82–89.
(3) Issokson K. DIGID Corner Inflammatory Bowel Disease Workinggroup Demystifying the Complexities of Fiber and Inflammatory Bowel Disease. Dietitians in Medical Nutrition Therapy, Academy of Nutrition and Dietetics, Volume 39-3.
(4) MacRoie JW. Evidence-Based Approach to Fiber Supplements and Clinically Meaningful Health Benefits, Part 2 What to Look for and How to Recommend an Effective Fiber Therapy. Nutr Today. 2015 Mar; 50(2): 90–97.
(5) Moayyedi P, Quigley EMM, Lacy BE, et al. The effect of fiber supplementation on irritable bowel syndrome: a systematic review and meta-analysis. Am J Gastroenterol 2014;109:1367–1374.
(6) EL-Salhy M, Ystad SO, et al. Dietary fiber in irritable bowel syndrome (Review). Int J Mol Med. 2017 Sep;40(3):607-613.
(7) 日本人の食事摂取基準 (2020年版). 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書. 令和元年12月. 「日本人の食事摂取基準」策定検討会